飲食地区の路面店を1カ月で確保

IT関連とビデオレンタルの2社を経営していた池永健悟氏。はじめて挑んだ飲食業だが、福岡市内の飲食エリアの路面店を確保できた。居抜き物件なので初期投資は1300万円ですんだ。月商600万円を目標に初期投資を2年以内に回収する方針である。

遊んでいられるビジネスに虚しさを感じた

オープンした「うまいものや 凛」。有名な飲食店が点在する警固本通りに面している

福岡市中心部の南西、近年はカフェや居酒屋など飲食店の開業が進んでいる警固エリア。その一角に「うまいものや 凛 Rin」がオープンしたのは2007年11月26日のことだった。3層構造の物件で、1フロア13坪弱。「店舗そのままオークション」を活用して開業した飲食店だ。

オーナーの池水健悟氏は1980年生まれ。27歳という若さながら、すでに2つの会社を経営する起業家だ。東京の大学在学中にデザインのアウトソーシング会社を立ち上げ、その後ビデオ機器のレンタル業務にも着手した。

2005年7月には、福岡の水産会社の社長から「IT関連会社をやらないか」との誘いを受け、共同出資でディスト株式会社を福岡市に設立。水産会社のERPシステム(人、物、金、情報など経営資源を統合して管理するシステム)を中国の武漢大学と共同開発し、日本における代理店の役割を果たしている。

「私が考えるビジネスの条件は、まず資本をかけないこと。そして誰にでもできる、つまりシステム化できることです。システムが確立されれば私は遊んでいられるわけですけど、一方でそういうビジネスには虚しさを感じることもありました」

“儲かりそうだからやる”のではなく、自分が本当にやりたいことをやろう――。そう考えた池水氏の脳裏に浮かんだのが、フードビジネスだった。実家が鹿児島で飲食業を営んでおり、「家業を継ぐことを“罰ゲーム”のように感じていた」と笑う池水氏だが、自ら飲食業を起業することになった。

「考えてみると、20歳の頃から一番勉強してきたのは食べ物のこと。お金をかけてさまざまな高級店に行きましたし、日本中のおいしい店を食べ歩きました。ホームパーティで料理を振る舞うと、お客さんも『おいしい』と喜んでくれました。そうした経験を飲食業に生かしたいと考えたんです」

オークション登録から1カ月で路面店を物件落札

当初はスケルトン物件を探していたという。だが、スケルトンから開業するためには、内装で1000万円以上、さらに空調や水まわりにもコストがかかると見られた。居抜き物件も考慮に入れようとした矢先、「店舗そのままオークション」のサイトを偶然発見し、即座に登録。まもなく、現在の警固の物件がメールで紹介された。

「この3階建ての物件を内覧したとき、不思議な空間だなあと思ったんです。何をやればいいのかさっぱりわからない。逆にいえば、どんな店でもできそう。そこからは早かったです。サイトに登録して1〜2週間でこの物件のオークションに参加し、2〜3週間で競り落としました」と、池水氏は振り返る。

この物件は、エスニック料理店を4年間経営してきたオーナーが、博多駅前に炭火焼の店舗をオープンすることになり、クローズを決めたもの。3フロアの合計は38.11坪である。和食、中華、イタリアンなどの有名な飲食店が点在する「警固本通り」という通り沿いに立地している。

「この場所で家賃の坪単価が1万円を切っているというのは魅力でした」と池水氏。路面店であるという点も気に入ったという。「これまでのビジネスを通じて、人に知ってもらう作業の難しさというものは痛感していました。ビジネスでは“認知されるかどうか”の要素がきわめて大きい。その意味で、路面の1階に店があるということは、家賃に広告宣伝費が含まれているようなものです」

07年10月10日に契約が成立し、組織づくりや内装工事、スタッフの募集などが急ピッチで進められた。契約成立から「うまいものや 凛」の開業までにかかった期間は、およそ1カ月半という短さだった。

出店コスト1300万円を2年で回収する目標

出店コストは、造作売買代金210万円、オークションのレポート作成料50万円、敷金240万円、前家賃30万円、仲介手数料15万円、内装工事費310万円、備品設備200万円、求人費用20万円。その他のコストを含め、投資額は1300万円(運転資金を除く)である。

店舗の2階にはスタンディング形式の大テーブルのほか、客席10席がある

今後2年間での投資回収を目標としている。 「オークションを利用したことが、コストダウンにつながったことは間違いありません。キッチンをそのまま使えたのが大きかったですね。また、当初のようにスケルトンにこだわっていたら、このスケジュールでは到底できなかった」

店舗はウッドの質感と白を基調としたシックな空間に仕上げられている。カウンターを中心とした構えで寿司店を崩したようなイメージの1階、大きなテーブルとバーカウンターを備えた2階と、それぞれ異なる表情をもったフロア構成だ。3階はいまのところ使っていないが、将来は個室のVIPルームを作る予定だという。

手前の皿から、ヅケ鯖のタタキ、フレッシュザーサイの浅漬け、いろは島の小粒カキをポン酢のジュレで、エビのオーロラソース、凛特製チャーシュー、サーモンとエリンギの春巻きアボカドソース、本日のデザート3種盛り

「うまいものや 凛」は、ひと口サイズの料理が主力メニュー。写真のように、大半のメニューがひと口サイズで食べられるという個性的な商品だ。価格もひと口メニューは150〜600円という低価格。“いろいろな料理を少しずつ楽しみたい”というニーズに応えている。

料理はすべて店内で味付けを行ない、でき合いの食材は使わない。アンキモを特製だれに漬けたり、ウニを味噌漬けにしたりと、ひと手間を加えた料理が光る。ホテルの中華部門出身の料理人がまかないのためにチャーハンを作ったところ、これが大好評でメニューに加わるなど、うれしい誤算もあった。

ドリンクでは、池水氏が好きな日本酒を豊富に揃えるほか、グラスワインも赤白各4種類をラインナップして選べるようにするなど、酒飲み心をすえた品揃えだ。客単価は2500〜3000円だが、食事をするお客の場合は4000円前後になる。

月商600万円は売れる店にしていきたい

プレオープン初日に招待客が多すぎて失敗。「その夜は一睡もできませんでした」と明かす。「自分のこだわりをもちすぎず、お客さんの意見に耳を傾けることが大切」と考えるようになった。

最近はコアなファンができつつあり、一度来店したお客が次回は知り合いと連れ立って来る、という形で客層も広がってきている。「今回投資したのは、“そこそこの店”を作るためじゃありません。月商600万円は売れる店にしていきたい」。はじめての飲食店への挑戦だったが、成功への自信は次第に深まっている。

若き起業家の目には、店舗そのままオークションはどのように映ったのだろうか。 「情報を制するものは時代を制すといわれますが、店舗そのままオークションはおもしろい情報ビジネスだと思います。通常の不動産情報は、いい物件があると思って電話しても『もう決まりました』といわれることも多い。ネットに載った時点でみんなが知ってしまうから、手遅れになってしまうんです。

その点、オークションなら情報を知った時点で手遅れということがない。また、売る側にしても、オークションという仕組みなら不公正な感覚を払拭できる。売り手にも買い手にもメリットのある、非常によくできたビジネスモデルですね」

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